昨年7月の「ゼロ金利解除」から7ヶ月もの期間を経てようやく“二の矢”を放つことができた―――不思議の国・日本の金融政策である。・・・
日銀は金融調節の誘導目標とする無担保コール翌日物金利を0.25%から0.50%へ引き上げただけに過ぎないが、過去2回の政策決定会合を振り返るまでもなく、ここに至るまでの“紆余曲折”は日銀の信認問題にまで発展し、その痴態を世界中にさらす格好となった。 (⇒外為市場では「金利格差」だけでなく「信認格差」も円安要因とされ、独G7前にはユーロ圏から非難された)
今回は、超タカ派審議委員によるメディアを駆使した強引な利上げキャンペーンが一切無かったため、与党幹部による恫喝的な利上げけん制という事態は避けられたが、国際協調として日銀が目指すべく「金融政策の中立化」まではなお程遠い。
福井総裁は今回の利上げの判断として二つの根拠を示している。
一つ目が、「生産・所得・支出の好循環メカニズムが維持され、緩やかな景気拡大が続く可能性が高い」という“成長シナリオ”である。
二つ目が、「低金利が実勢と離れて長く続くという期待が定着する場合には、行き過ぎた経済活動を通じて資金の流れや資金配分に歪みが生じる」という“リスクシナリオ”である。
“成長シナリオ”については、1月の決定会合以降に発表された経済指標が鉱工業生産とGDPを除いては軒並み悪化しており、説得力に乏しいというのが実情であろう。
特に物価情勢は日銀が昨年4月の新たな金融政策の枠組みの中で打ち出した「中長期的な物価安定の理解」から逸脱して弱含んでおり、今回の利上げはCPIのマイナス転落を覚悟してでも金利正常化を急ぐ必要があったという解釈になってしまう。
その答えが“リスクシナリオ”にあるとすれば、日銀は独エッセンG7(02/09-10)が注意喚起した「円安を見込む一方向の取引リスク」を意識していることになる。
福井総裁は昨日の会見で、「円安がすべてディストーションになっているとは思わない。日本の皆さんの持っておられる貯蓄の保有形態がほぐれつつある。かつてはホームバイアスで全部が国内に封じられていたが、少しずつほぐれて海外運用もなされるようになってきている要素も強い。円キャリー取引ということですべて一色のレッテルを貼って、それをもって何か重要な政策判断の材料に取り入れているということではない」との見解を示している。
かつて、日本経済がデフレスパイラルの危機に陥ったとき、日銀は量的緩和でジャブジャブの資金を供給しマネーを覚醒しようと試みたが、マネーは萎縮して借金返済に向かったリタンス預金として滞留し続けた。
当時、福井総裁は、本来マネーは利益を求めて動き回る習性があるとし、量的緩和の狙いの一つであったポートフォリオのリバランス効果に期待した。
そんな福井総裁が、持論でもあるマネーの本質論を否定(撤回)できるはずもない。
デフレ経済下では、リスク忌避的な投資行動が経常黒字の対外資本還流を目詰まりさせ、円高を進展させたが、現状では国内のカネ余りと潤沢なキッシュフローが金融緩和の累積効果とデフレ脱却という起爆剤により対外解放が促され、円安をもたらしているのである。
あまり話題にされていないが、日本企業による海外でのM&Aが円安をもたらしている事実は無視できない。昨年1年間では、日本企業による海外でのM&Aが439億㌦に対して、外国企業による日本でのM&Aは50億㌦に過ぎないのである。
一部では円キャリー・トレード悪玉論が取り沙汰されているが、その実体を政策に把握することは不可能であり、ドイツ連銀は2月19日に公表した2月月報の中で「キャリート・トレードが相場に及ぼす影響は大方の見方ほど大きくない可能性がある」と指摘している。
経済のグローバル化と資本の自由化によって、金利裁定という市場調節機能が働き、高金利国には通貨高によるインフレ抑制効果、低金利国にはリフレ効果をもたらいているのである。
いずれにしても、円金利の先高観が醸成されないうちは、持続的な円高は想定しづらい。
福井総裁は、我々が「極めて低い金利水準」という言葉を使わなくなるまでは正常化のプロセスだと思っていただきたいと述べているが、肝心の国内物価は今夏までは下押し圧力にさらされる可能性が高く、日銀の金融政策見通しを反映する円3ヵ月金利先物は、少なくとも9月までの金利据え置きを想定している。
問題は円安ピッチということになり、今回のように国際会議(G7)や金融政策などのイベント前には、自律的な調整が促される可能性は念頭に置いておきたい。







