2006年11月23日
板垣 哲史
アフリカの動物生態学でも著名な映画監督のH先生の話では、アフリカの草原で自由に生きるライオンの群れは、当初の獲物を確保すると、満腹するまでむさぼり、のんびりと昼寝をする。食べ残しもほとんどほったらかしでハイエナが食おうがお構いなしである。
それを知ってか、しばらくすると周りに旨そうなガゼルやインパラの群れが集まってきてもライオンたちはもう見向きもしない。なぜなら、ライオンには、未来に備えようとする発想の概念がないからだ。
ところが、我々人間は幸か不幸か常に今を考え、そして未来に備えようとするため、ことが起こる前に、前もって事態を予測し、先んじて行動を取ろうとする。
相場の世界でやっかいなのは、プレイヤーが全てこのような発想を持つ人間であることだ。しかも欲深い為、自分の食い扶持以上ガメようとする。
所謂オーバーシュートが必ず起きる。相場のパラドックスとは、売るべき事実が明らかになった時には、売り手がおらず買い手ばかりとなり、買うべき事実が明らかになった時には、買い手がおらず売り手ばかりとなり、その結果相場は動くべき方向と反対の動きになってしまう現象のことを言う。
即ち、相場の格言の中にある「噂で買って事実で売る。」「噂で売って事実で買う。」という現象が必ず出現する。とうもろこしの相場で言えば収穫のはるか前に好天に恵まれた日が続き始めた頃からその年の秋の収穫期の先物相場に影響を与え始めるわけだ。そして収穫期が来て大豊作が発表されるや否や、取引価格は急落してしまうと言う事だ。トレーディングの場合は日々細かな波乗りと同じなので、ほぼ毎日毎週波乗りをしていかなければならない。
通常、相場に影響を与える重要な指標が発表されるその前週から予想数字に従って流れ始めるが、毎回その情報の伝達スピードが多様な為、毎回微妙にパターンが異なることである。最近の為替市場の動向を見ると、売買行為に強く影響を与える流行の経済指標は二つある。全て米国の経済指標で、月初に発表される失業率と月末に発表される貿易収支である。その他、FOMCの金利の引き上げも強い影響を与える。これらの指標の発表は何故かほとんど金曜日である。
さて、前週から悪い数字の予測ならドル売りポジションを徐々に積みあげ始めるが、通常現実はもっと複雑な動きとなる。というのは、発表週の水曜日頃になると、例えば、予想よりも更に悪い数字でないかとうわさが流れはじめ、更にドル売りを積み上げようと動き、ドルは益々ドル安となっていく。しかし、木曜日のN.Y.開始時間頃、ドル売りポジションで満を持していた多くのトレーダーの中から気の弱いトレーダーが、下げすぎたことから不安を感じ初め、ドルの買い戻しのための買いを入れていくために、金曜日の発表直前には月曜日の始値に比べて、水曜日の週最安値から三分の一以上戻してしまう傾向にある。そして、いよいよ発表の時間となる。予想より悪い数字が出た途端、市場は25~45ポイント一瞬下がるが、10数秒でなんと激しい買戻しのためのドル買いが入り、月曜日の始値近くまでドルは戻してしまう。
すなわちトレーディングの難しさは、情報を正しく読み取ることにあらず、市場の他の参加者たちが、どのぐらい前もって行動を起こし、既に売り過ぎか買い過ぎなのかを推理することによって、売買のタイミングが勝敗を決することである。しかも指標発表までの思惑の動きは、毎回微妙に異なる流れを持ち、柳の下にドジョウは中々いないのだ。






