2006年12月28日
板垣 哲史
トレーディングでよい成果を挙げる心得としてばかりでなく、現実の世の中を生きていくうえで、もっとも大切なことは、自分の将来に対してどのようなイメージ (ヴィジョン)をもって生きていくか、ということだ。
ここで大それた人生論を述べるつもりは毛頭ないが、このイメージの中でも極めて大切なのは、お金に対するイメージである。特にトレーダーやファンドマネージャーを生業とする人々においては、各個人がお金に対してどのようなイメージを持っているかが、トレーディングで収益を上げ続けることができるかどうかの根源的なキーポイントとなる。
先日、ある講演会で会場に向かって「この中でお金持ちになりたいと思っている人がいたら手を上げてください。」と言ったらほぼ全員の人たちが手を上げた。次に、「巨万の富を得る日本有数の大金持ちになりたい人だけ手を挙げてください。」というと数名が周りを見渡しただけで、誰も勢い良く手を上げたものはいなかった。
ここで分かることは、実は、多くの日本人は、本当に大金持ちになりたいと思っている人がほとんどいないという事実である。
いやそんなはずはない私は大金持ちになりたいのだ。という方に次の質問をして見よう。
「あなたに今、十億円をあげたら、何に使うかすぐに教えて欲しい。」
するとほとんどの人が、まず即答できず次のように言う。「えーと、二億円で郊外に豪邸を建てて、ベンツの一番安いのを買って、42インチのプラズマテレビを買って、女房に百万円あげて、えーと、あとはとりあえず銀行に預金してから考えます。」
大金持ちになりたいといっても、実際イメージできるのはせいぜいこの程度である。
たかだか自分を中心とした身の回りの利己的なことしか考えが及ばない人がほとんどなのだ。すると潜在意識の中にある富を独占することへの罪悪感と顕在意識との不一致を起こし、心の底から大金持ちになりたくない、という心理変化を起こしてしまうのである。そうしたお金に対する貧しいイメージしかもてない人間は、せっかく得た十億円も人に騙されたり、落としたりしていつの間にか失ってしまうことになる。
すなわち、美術館を建てようとか、社会福祉のために役立てることに寄付しようとか、公のために使おうとかいう発想は、まるで出てこない。それが普通の人であれば許されるかもしれないが、これが、ことトレーダーやファンドマネージャーであった場合はかなり問題である。何故なら彼らは投資家から預かったお金を運用しているからだ。
プライベートと仕事は別だ、と反論しても無意識のうちにその人の人生観がトレーディングに反映されてくるものだからだ。トレーダーやファンドマネージャーは利己的な心を離れ、透明な水の流れのような心で市場を見つめることが大切である。
そうすることで我欲に惑わされず、自然と未来の方向を感知し、結果として利益を得ることができるのだ。私情を離れてこそ、市場を冷静に見つめることで的確な決断を下せる。
心の底から儲けたいという思いを常にもち、富を独占することの潜在意識の罪悪感と不一致を起こさないよう、日ごろ勝ち得た利益を世の中にどう還元するかのイメージトレーニングこそトレーダーとしての成功の鍵を握るのだ。
心の底から思っていることが実現する確率は、思っていないことが実現する確率よりはるかに高いことを忘れないで欲しい。大金持ちになりたいという思いと、人々のために何かをしたいという思いは決して矛盾しない。
世界的な相場師であるジョージ・ソロスはまた慈善家としても有名である。そのスケールの大きさは並大抵のものではない。たとえばアゼルバイジャン共和国に24億円を寄付したり、またエリツィンが大統領になったときには一億ドルの寄付をしたといわれている。さらに祖国ハンガリーにも巨額の奨学金を寄付している。その他枚挙に尽くせないほどだ。
彼の資産運用の哲学は自分の所得を増やすだけにあるのではない。ソロスに対する評価はさまざまだが、嫉妬、やっかみは忘れて素直に賞賛すべきだと思う。
なぜなら人間は非難したり、否定したりする人間に、自分自身が絶対なれることはないからだ。
そこで、せめて我々も常日頃から「十億円があったらどう使うか」というイメージトレーニングを始めることが、トレーディングに勝つ、最短の近道であることを心に留めて欲しい。






