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斎藤満――東海東京証券 理事 チーフエコノミスト

2007年7月12日

 外国為替市場では日本円が最弱通貨となっており、対円では強含んでいるように見えるが米ドルもそれに次いで弱い存在だ。円相場がどうして弱いのかというと、異常な超低金利が続いているなかで、しびれを切らした個人投資家が投資信託を通じた外債投資や外貨預金、為替証拠金取引に動いているからだ。日本の家計の貯蓄は600兆円とも800兆円ともいわれているが、そうした資金が海外に流出しだしたのだから、その巨大なマグニチュードは計り知れないものがある。以前のように「チューリヒの赤鬼」と呼ばれた人たちに代表される国際投機ディーラーが市況を動かしていた時代に比べると、現在の日本の個人投資家は下がれば安定的に買ってくる傾向があるので、ボラティリティが小さくなっている。しかも、現在では日米間の政策金利の差が4.75%と依然として5%近い水準を保っているなかで、ボラティリティが小さくなったことから、個人投資家にはよけいに国内の超低金利と比較した海外の高金利が魅力的に映るようだ。

 だとすれば、これから為替市況を見るうえで注目されるのは、①金利差の動向、②金利差による魅力を失わせてしまうほどボラティリティによるリスクが高まるか、③個人マネーが枯渇するか‥‥といったことが挙げられるだろう。このうち③については、まだ貯蓄の1割も海外に流出しているわけではないので、枯渇することはまず考えにくい。また①については金利差が縮小していけば円安への歯止めになるが、円安是正のために海外の中央銀行が利下げをすることはまず考えられない。その一方で、日銀が利上げのペースをこれまでの半年に1回から3ヵ月に1回程度に速めると見込まれることは円の支援要因になる。とはいえ、それでもまだ小刻みにゆっくりとしたペースの利上げであることに変わりなく、年間1%しか政策金利を引き上げられないので、1年後にコール・レートが1.75%になっても、2番目に金利が低いスイスをまだ下回る状態だ。しかも、ECBはこれまで通り利上げを続けていく姿勢を示しており、FRBも利下げ観測が完全に払拭され、むしろ再利上げ観測が浮上していることを考えると、容易に内外金利差が縮小していくことはなさそうだ。
 それでも円安傾向が反転するには②による要素が高まること以外になさそうだ。日本から海外に流出した資金が回帰する傾向を強めたり、何らかのきっかけで突発的にドル安が進んだりすると、個人投資家がポジションを一気に損切りするかもしれない。そうした観点では、現在ではかつてのように投機筋が“暴れ回る”ことでボラティリティが一気に極端に高まることが起こりにくくなっていることで、その可能性は低くなっている。ただし、シカゴの通貨先物市場が20万枚を超すほど円の売り持ちが積み上がったり、個人投資家の円売りが行き過ぎてしまい、不安心理が高まる状態にまで円が売り込まれたところで何か突発的な要因が起こり、投機筋がドルを売り崩す動きを見せれば短期間で大きく動くことで、個人投資家の投げを誘うことができるかもしれない。ただし、あくまでも中途半端な円高だと個人投資家の外貨買い意欲が強まって絶好の押し目を提供してしまうので、円安傾向が収束するには相当大規模な円高が訪れる必要がある。2月27日に上海市場を発端に世界的に株安ショックが到来した際にはヘッジファンドの円キャリー取引の巻き戻しから急速に円高が進んだが、この時には個人投資家の外貨買いから1ドル=115円10銭で下げ止まったものだ。そうした観点では、115円を下回ると投げに拍車がかかる可能性が高まるが、最低でも120円を切ってくる必要があるだろう。
 では何がきっかけになるのか。おそらく8月に日銀が追加利上げに動くだろうが、それだけでは円高に反転する決定的な要因にはなりにくい。その後、10月に先進7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議が開催されるが、国際間で為替調節が合意されるようだと、その可能性が出てくるかもしれない。最も気になるのは米国内で議会が先鋭化しているように保護主義的な圧力が強まっていることだ。一部でささやかれているように、中国に対して漸進的に金融制度改革を促すことで徐々に人民元の切り上げを実現させてきたポールソン財務長官が更迭されてしまい、通商面重視の人物に交替するようだと、人民元のみならず、円にも大きな反転要因になり得る。米国は00年以来、外国為替市場で介入を実施していないが、最近、米議会では上院で為替介入権を認めて強引に人民元の切り上げを図るべきといった意見が出たのが注目される。

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2007年07月12日 09:31に投稿されたエントリーのページです。

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