« 株価為替対策を日本政府に熱望す | メイン | 日本銀行貨幣博物館 »

中丸友一郎――マクロ・インベストメント・リサーチ 代表取締役兼チーフエコノミスト

 ドル・円相場は当面下振れリスクが強い展開にならざるを得まい。米住宅バブルの崩壊とサブプライム問題を中心とする金融市場の混乱から世界的に株価が急落し、米実体経済も昨年10-12月期から目立って悪化してきたことで、FRBが大幅な利下げを続けていくとの見方が強まっているからだ。

 これまで、株安は日本株を筆頭に先進国だけにとどまっていたのが、1月21~22日には新興国にも波及して全世界規模に拡大したことから、FRBは月末29~30日に予定されているFOMCの会合の開催を待たずに、22日に緊急に0.75%もの大幅利下げを断行した。おそらく、バーナンキ議長の言動を見ていると30日にはさらに0.5%もの追加利下げに動きそうだ。30日に利下げが行われるとFFレートは3.0%にまで低下することになり、さらに市場は年末までに2.0%にまで引き下げられることをすでに織り込んでいる。
 このような米政策金利の急速かつ大幅な低下期待を背景に、目先的にはさらにドル安が進んでおかしくないと思われ、状況によっては99年11月・00年1月や05年1月の1ドル=101円台の安値を下回り、100円割れが現実化する可能性も見ておく必要があるだろう。
 このような超緩和型の金融政策には大きなリスクがある。米国では直近の12月の総合ベースでの消費者物価指数の前年比上昇率が原油高の影響で前年同月比4.1%にまで高まってきている。すでにFFレートはこの水準を下回っており、実質マイナスの政策金利水準となっている。さらに2.0%程度にまで引き下げてしまうと、コア・ベースでの上昇率(2.4%)をも下回ってしまう。明らかにパニック的な金融政策が運営されており、住宅バブル崩壊を阻止しようとして、再びその他のバブル膨らませる確率は小さくない。
 例えば、金や原油といった国際コモディティ市況がさらに高騰し、これにドル安が加われば、インフレ高進はさけがたいものとなろう。そうなれば、世界の金融市場において投資家心理が萎縮し、リスク回避的な行動が促進され、円キャリートレードの巻き戻しから円高・ドル安が一段と進展する危険も無視できない。結局、当面はドルの急落リスクが残るだろう。
 しかし、中期的に見れば、今年末に向けて上昇していく可能性がある。米国経済は確かに住宅価格の下落による資産効果の剥落や金融不安による心理面での悪影響、原油高によるガソリン、暖房油市況の高騰から家計部門の個人消費がかなり減速しているようだが、輸出が好調であり、意外に企業部門の生産活動は設備投資、在庫投資両面で堅調に推移している。少なくともリセッション入りは回避されるだろう。
 そこにブッシュ政権が総額1,500億ドル(米GDPの1%の規模)もの景気対策の実施を表明したことや、金融政策面でも過剰な金融緩和政策が推進されていることを考えると、米景気は年後半になると市場の期待以上に堅調に推移していく可能性が高い。
 そもそも、今回の株安は長期金利が10年債利回りベースで22日には3.4%台前半まで低下したのに見られるように債券高を伴っており、いわば“質への逃避”により資金が株式市場から安全資産である債券市場に急速にシフトしたことによりもたらされたものだ。そうした意味では、サブプライム問題による信用収縮懸念が後退すれば、資金も次第に株式市場に回帰していくだろう。また21~22日の株価急落は主に仏ソシエテ・ジェネラル銀行のトレーダーの不正行為が発覚したことでいっせいに投げ売りを浴びたことによるところが大きかったと思われるが、こうした事実をFRBは知らなかったようだ。
 ただでさえFFレートが2.0%程度にまで引き下げられるのを織り込んでいるので、中期的にはドルの下値はそれほど大きくないと思われる。おそらく、ドル・円相場は短期的に100円割れを示現したところで底入れし、サブプライム問題による狼狽的な雰囲気が後退するとともに株価が出直っていき、さらに米景気も意外に底堅いことが認識されてくることで上昇しやすくなるのではないか。長期的な為替相場が購買力平価付近に収斂するとすれば、1985年のプラザ合意による大幅な切り下げ以降、日米間の生産者物価ベースでのインフレ率格差を用いて算出すると、07年末には115円と推定できるので、今年末にはその水準に近いところまで上昇していく可能性が高いのではないか。(1月29日、談)

About

2008年01月31日 10:47に投稿されたエントリーのページです。

ひとつ前の投稿は「株価為替対策を日本政府に熱望す」です。

次の投稿は「日本銀行貨幣博物館」です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。