ドル・円相場の下落傾向は不変であるものの、当面は戻り歩調になりそうだ。その一方で、短期的にはユーロ安が顕著になると予想している。
長期的なドル安傾向は変わりそうもない。米国ではサブプライム問題に解決のメドが立たず、ここにきて金融市況をバブル的な水準にまで膨れ上がらせる“根幹”の役割を担っていたモノライン(金融保証会社)の格下げ論が浮上してきている。もし格下げされてしまうと、保証されていた各種証券化商品や地方債も自動的に格下げせざるを得なくなってしまうため、米金融・資本市場全体に甚大な被害が及ぶ恐れがある。こうした状況に対し、米政府は米欧大手金融機関8行にコンソーシアム(企業連合)を結成して資本注入することを後押ししているが、これら大手機関はいずれも今回のサブプライム問題で大きな被害を受けているところばかりであるため、果たして、どの程度の効果が見込めるのか甚だ疑問である。抜本的な対策を打ち出すなら公的資金を大規模に注入する以外にあり得ないが、今回は減税を主体とする1,500億ドルもの景気対策をまとめたように、現共和党政権はそうした公的部門が民間に介入するような政策には否定的である。このため、今後も米金融・資本市場の動揺は収まりそうもない。
こうしたことから、米国では採り得る政策手段としては金融政策以外にあり得ない。世界的な株価急落を受けてFRBは1月22日に緊急に0.75%の利下げに踏み切り、30日にも0.5%の追加利下げを実施したことで、現在ではFFレートが3%にまで急速に引き下げられてきている。現在、短期金融市場では年末までに2%程度まで引き下げられていくのを織り込んでいるが、公的資金を注入できない以上、政策当局としてはこうした“漢方療法的”な政策で凌いでいく以外に採り得る政策が見当たらない状態だ。しかも、低所得者層向けの住宅ローンの焦げ付きから生じたサブプライム問題を“第一幕”とすれば、バブル崩壊の対象はその“第二幕”として商業用不動産に波及していく兆しが出ており、それにより大手金融機関はさらに大規模な損失計上や引当金の積み増しにより資本不足の危機に直面していきそうだ。さらにその先には“第三幕”として優良顧客層向けの住宅ローンであり、ホームエクイティ・ローンを含むプライム・ローンも控えているとの見方もあるだけに、FRBは今後も長期的に金融緩和政策を推進していかなければならないだろう。FRB関係者や市場関係者はインフレ懸念を指摘する向きも見受けられるが、確かにその危険性もあるとはいえ、当面はそのようなことなど言ってはいられない情勢だ。
このように、中長期的にはドル安傾向は変わらないと思われるが、短期的には強含んでおかしくない。対円については、シカゴ通貨先物市場での5日現在の円の買い越しが5万5,000枚近い水準に達しており、かなり買われ過ぎの状態にある。また、景気対策が出れば一時的に米景気が浮揚する公算があることもドル相場を支援するだろう。ただし、戻してもドル・円相場は1ドル=110円程度で上値を抑えられてしまい、再び本来の下降波動に回帰していくと予想している。
一方、対ユーロについては対円以上に戻していくのではないか。EU圏では実体経済が陰ってきただけでなく、金融機関の資本不足の問題が表面化してくる恐れがあるからだ。これまで、米金融機関は四半期決算ごとに損失を計上し、中東や中国の政府系ファンドからの出資を仰ぐなどして対処してきたが、欧州では会計基準の相違からこれまで財務内容を開示してこなかった。このため、本当はかなり被害を受けているとみられるのだが、損失計上がまったく進んでいない。それが仏ソシエテ・ジェネラルのトレーダーによる不正事件の発覚もあってそうした一端が垣間見えたこともあり、市場ではEU圏の金融機関の脆弱性が注目され始めた。7日のECB理事会後の会見でトリシェ総裁が景気の下方リスクに言及するなど、これまでとは認識を変えてきているのが注目される。市場ではすでにECBが利下げに転じる時期を模索し始めた。先進7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議出席前の会見で、即座の利下げを否定したことでいったんは下げ止まっているとはいえ、じきにユーロ安が始まってもおかしくない。(2月12日、談)






