パッシブとアクティブ
03月06日
立正大学経済学部 教授 林 康史
今、ビクター・キャントというエコノミストの『カクテル経済学』(仮題。4月刊。ダイヤモンド社)の監訳をしている。その本は、パッシブ運用ばかりではなく、これはというときにはアクティブに乗り換えての運用を進めている。
また、3月10日の週刊東洋経済に、「アクティブかパッシブか」という意見対立について書いた。今回は、それらの議論の前に、パフォーマンスをどのように計るのかという前提を検討することが必要なはずである。
今回は、それに関連して、運用の期間とパフォーマンスについて述べておきたい。
長距離ランナーと短距離ランナーが、長距離走を行ったらどうだろう。長距離ランナーが勝つに決まっているだろう。
パッシブという長距離ランナーとアクティブという短距離ランナーが、長期間のパフォーマンスを競えば、パッシブが勝つのは自明でもある。
カジノで客が勝つのは、大勝ちした段階で勝ち逃げする以外にはなく、ずるずると長く勝負を続ければ、ジリ貧は目に見えている。
確率の問題だ。
亀が兎に勝つのは、長距離だからで、短距離走は兎が勝つだろう。
短距離の選手に、全力近くで長距離を走らせると、タイムが落ちるのは当然で、その結果で、短距離選手の持久力のなさをなじるようなものである。
確率の問題といえば、それも勘違いを助長している。
ゲームをして、毎年、勝ち組か負け組に分かれるとする。確率は2分の1。例えば、20年間、勝ち組に入る可能性は、確率では、2の20乗分の1、つまり、ほぼ100万分の1だ。とても困難だと思われる。
(勝ち組と負け組の2組でもそうなのだから、5段階にクラス分けし第一組に入り続けるのがもっと困難なのは明らかだ)
しかし、これは、サイコロを振って決めるのであればそうなのだが、技量が問われるゲームであれば、まったく話は違う。
また、非常に優れた技量の持ち主も、負け組に入ってしまうこともあるだろう。その1年の実績でもって、その人はダメだと言われてしまう。
学業成績や体育の実技と同じで、できる生徒は、できるわけで……、明確に差があるのも事実。チャールズ・D・エリスは、『敗者のゲーム』で、「なぜ機関投資家は、彼ら自身が市場そのものだというのに、市場を上回る利回りを期待するのだろうか」と述べているが、学級の成績順位が大体は上位というのを期待してはいけないというのは現実的ではない。
もちろん、毎年、平均点を狙うほうが、長期では勝てるのも事実。
例えば、A氏は平均3%で運用する実力のファンド・マネジャー、B 氏は平均5%で運用する実力はあるのだが、もっと成績を上げようとして失敗もするファンド・マネジャー。5年後の最終成績はどうなるだろう。例えば、表のような成績になったとしよう。
| 年後 | A氏 | 総額の推移 | B氏 | 総額の推移 | |
| 1 | 1.03 | 1.03 | 1.1 | 1.1 | |
| 2 | 1.03 | 1.0609 | 0.96 | 1.056 | |
| 3 | 1.03 | 1.092727 | 1.03 | 1.08768 | |
| 4 | 1.03 | 1.125509 | 0.96 | 1.044173 | |
| 5 | 1.03 | 1.159274 | 1.11 | 1.159032 | |
| 5年間の平均 | 1.03 | 1.032 | |||
平均では、A氏は平均3%で、B氏は平均3.2%で、B氏の勝ちのはずが、B氏の成績は-4%から+11%までと、ばらつきも大きく、トータルではB氏の負け。
平均を狙うほうが、長期的には有利になる。
もっと言えば、B氏は2年目が終わった段階で、クビかもしれない。
| 年後 | A氏 | 総額の推移 | B氏 | 総額の推移 |
| 1 | 1.03 | 1.03 | 1.1 | 1.1 |
| 2 | 1.03 | 1.0609 | 0.96 | 1.056 |
| 2年間の平均 | 1.03 | 1.03 |
平均は同じなのに、トータルはますます劣後している。
(長期では、亀が兎に勝てるというのは、私のようなボンクラにとってはうれしい事実だ。「コツコツ頑張ることが大切だ」と、子にも教えやすい)
もちろん、人生は長距離走。しかし、ウォーレン・バフェットの「私の好きな保有期間は永久である」は言いすぎだろう。普通の人にとって、運用期間が永遠というのは無意味であろう。
私たちは、ファンド・マネジャーを雇うとき、継続性を気にして年寄りは雇わないが、人生のパーソナル・ファイナンスで考えれば、老後にあまりの長期運用を意識するのは間違い。
例えば、個人のポートフォリオにおける株式と債券の比率の話を思い出すとよい。
キュントは『カクテル経済学』のなかで、一般論として、株式と債券の比率をと6対4としているが、ボーグルは、年齢の数値のパーセントを債券に、(100-年齢)の数値のパーセントを株式に投資するのがよい、と述べている。例えば、25歳だと、運用資金の25パーセントを債券に、75パーセントを株式に投資する、ということになり、55歳だと、運用資金の55パーセントを債券に、45パーセントを株式に投資する、ということになる。
それはなぜかというと、労働ができなくなった、老後に使うためである。したがって、リスクの小さなものの比率を高めるということだ。
つまり、運用は、本人が使うためというのがそもそも前提なのではなかろうか。
バフェットなどアクティブは「まぐれ」だと考える人は、単に確率で考えるからだ。また、ふつうは、数十年も自分の資産すべてを市場に置き続ける人はいないだろう。負け組と同様に、勝ち逃げの人は、最後まで、市場にはいまい。
確かに、複利計算は、投資に関しては外せない概念であるが、あまりに長期を強調しすぎるのも、どうかと思う。
短期であればアクティブ足らざるを得ないし、長期であれば、パッシブは負けない運用スタイルとなる。それだけのことであって、どちらが正しいということでもないのだと思う。
以上






