ドル・円相場は米大手証券会社ベアー・スターンズが破綻した3月17日に1ドル=95円77銭の安値をつけてから反発し、5月2日に105円70銭まで戻した。2日に発表された4月の米雇用統計で非農業部門の雇用者数が事前予想では前月比8万人もの減少とされていたのが同2万人の減少にとどまり、また5日には4月のISM非製造業景況感指数も52.0と50を超えたことで、米景気底入れ期待が高まった。それにより、FRBは4月30日にFFレートを0.25%引き下げたが、それで利下げが打ち止めになるとの観測が強まったことによるものだ。
もっとも、米国経済はさしあたり最悪期を脱したようには見えるが、これから本格的に回復に向かうとは予想していない。4月30日に発表された1-3月期の実質GDP成長率(速報値)は前期比年率0.6%にとどまったが、設備投資がマイナスの伸びに転じ、個人消費も落ち込むなか、民間在庫品がかなり伸びたことで辛うじてプラス成長を維持した。しかし、在庫の増加は最終需要の低迷の裏返しであり、確実に4-6月期以降に意図せざる在庫の積み上がりとして企業の生産活動を抑制させることになる。しかも、なにより住宅価格の下落傾向が止まらないだけでなく、そのペースがここにきてさらに加速しているため、逆資産効果も剥落しそうもない。ただ、ベアー・スターンズが破綻した際には他の大手証券会社の連鎖破綻も噂されるなどかなり悲観的な見方が強まったものであり、下落局面では決まって外債投資に動いていた国内個人投資家ですら、3月17日に底入れしてまだ100円に達していない時期には円買い・ドル売りに動いたものだ。あくまでも、そうした行き過ぎた悲観的なムードが是正されたことで市況が戻してきたに過ぎない。
さしあたり、米国経済は4月28日から減税を柱とする緊急経済対策が実施されたことで、間もなく中低所得者層を中心とする一般家庭に小切手が配布されることで消費活動が押し上げられるとの見方が根強い状態にあり、実際にある程度は押し上げられておかしくない。そうした景気浮揚効果が5~6月に表れるとすれば、市場ではそうした景気指標が発表される7月ごろにかけて楽観的なムードが支配的になるかもしれない。また、3月半ばにかけて米金融市場が動揺するとともにドル安圧力が高まったのは、中国が人民元切り上げのペースを加速させたことで、ファニーメイ(米連邦住宅抵当公社)やフレディマック(米連邦住宅貸付抵当公社)が保証している住宅ローン担保証券(RMBS)やこれらの準公的金融機関が発行しているエージェンシー債、さらには米国債までをも売却したのもその一因だ。ところが、中国としてはチベット問題から北京五輪の開会式に欧州主要国の首脳がこぞって出席を見合わせることを表明しているなか、ブッシュ米大統領の出席を実現させるためにも五輪が終わるまでは切り上げのペースを緩めるか見合わせる公算が高い。そうしたことも、ドル安圧力が強くならないと考えられる一因として指摘できる。
ただし、3月半ばにかけて円高が進んだことで、日本の輸出企業は社内レートを円高方向に修正させているため、105円台では円買い・ドル売り予約が大量に入ることから、目先5月2日の高値を超えてさらに上昇していくことは考えにくい。もちろん、こうした予約が一巡すればこの上値抵抗を突破し、夏ごろにかけて上昇していくだろう。とはいえ、3月に急落する以前の1~2月にかけて保合っていた107~108円台の水準は強力な上値抵抗であると思われ、これを超えてさらに一段高に向かうとは見ていない。
北京五輪が終わると、中国が再び人民元切り上げのペースを速めておかしくない。同国ではこのところ消費者物価上昇率が前年比8%を超えるほど物価上昇圧力が高まっているが、とくに食料品の価格が著しく高騰しており、低所得者層や貧困層の生活が圧迫されているため、社会不安を抑えるためには抜本的に切り上げざるを得ないからだ。しかも、住宅価格が下げ続けていることでサブプライム・ローンだけでなく、カード・ローンや自動車ローンなど他の信用市場にも市況の崩落傾向が波及しつつある。こうしたなか、例年、秋になると米金融市場が動揺することが多いだけに、規模がサブプライム関連よりはるかに大きな商業用不動産ローン担保証券(CMBS)市場が崩壊することで金融危機が再燃しておかしくない。それによりドル安圧力が再び高まることが予想されるが、主要国が協調介入に動かなければ3月17日の安値を割り込んでおかしくない。それにより、来年1月には円相場史上最高値である95年4月19日の79円75銭付近まで急落する可能性もあり得るのではないか。(5月7日、談)






