ドル・円相場は米ベアー・スターンズが破綻した3月17日に1ドル=95円77銭の安値をつけてから反発したが、5月2日に105円70銭まで戻して上値を抑えられてしまい、最近では弱含み傾向になっている。ここにきて原油価格高騰から企業収益悪化懸念が高まっており、ガソリン高から消費減退懸念も強まっていることも加わって米株価が軟調な展開になっていることがその背景になっている。現在では市場はFRBが利下げ打ち止め観測を通り越して1年後には利上げに転じるのを織り込んでいるが、インフレ懸念といった共通の問題点を抱えている欧州や日本でも利上げ観測が高まっている状況ではドル高要因にはなっていない。むしろ、それにより米株価が軟調な展開になっていることでドル安をもたらしているといえる。
もっとも、3月半ばまで高まっていた信用不安はかなり落ち着いており、しばらくは急落リスクは小さそうだ。当時は3月期決算に向けて銀行が極端な貸し渋り傾向に陥ったことで、融資枠を狭められたヘッジファンドが運用していた住宅ローン担保証券(RMBS)を処分売りせざるを得なくなったことで信用危機が引き起こされたものだ。この時、破綻したカーライル・グループのファンド子会社はRMBSで99%運用していたものであり、またベアー・スターンズはほとんどRMBSを担保に短期資金を調達していたが、担保価値の急落から急速に資金繰りに行き詰まったものだ。
結局、この時の危機は米財務省やFRBが3月11日に国債貸出制度を創設してRMBSを担保に米国債の貸し出しに応じたことや、14日から17日にかけてベアー・スターンズをJPモルガン・チェースに吸収合併させるにあたり特別救済を実施し、さらに時価会計における減損処理の原則を緩和するといった一連の処理がとりあえず奏功して危機を脱することができた。実際、4月に発表された1-3月期の決算はそれほど悪い内容ではなかったが、これは「レベルⅢ」といわれる流動性の低い債券の本体を損失計上せずにヘッジ目的で反対売買して利益が出ている部分だけを計上したことがその一因だ。また大手金融機関のなかには、評価損が出ている資産を満期まで保有することにして簿価で計上したことで、最終損益に表れていない評価損が8兆円もある。
そうした意味では、6月の決算期にこれまで損失計上していなかった分を計上することで悪い内容になるといった疑念が拭えないことが、最近の米株安によるドル弱含みの背景にあるようだ。米国はバーナンキFRB議長主導で4月11日の先進7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議で時価会計を緩和するように求め、これに欧州の財務相や銀行筋も賛成したが、国際会計基準審議会(IFSB)の意向を背景にドイツ連銀を中心とする欧州の中銀勢が強硬に反対し、日本もこれに同調したことで実現しなかったものだ。ところが、米国はこの決議に従わずに独自に減損処理の義務化の緩和に動いており、これからIFSBとのミゾが深まりつつあるのが懸念されるとはいえ、6月に発表される決算もそれほど悪い内容にはなりそうもない。しかも、6月には大阪で主要国(サミット)財務相会合が、7月7日には首脳会議(洞爺湖サミット)が開催されるため、危機が封じ込められた状態が続く可能性が高そうだ。
しかも、3月半ばにかけて米国で信用危機が高まったのは、中国が人民元を大幅に切り上げていたこともその大きな要因であると考えられる。中国では昨年後半には株式・不動産バブルを沈静化させるために、また年明け以降は消費者物価指数が前年比8%を上回る水準で推移しているなかで、インフレ懸念を抑制させるために人民元を4月11日のG7会議にかけて1ドル=7元割れまで大幅に切り上げてきた。切り上げるとそれに伴ってファニーメイ(米連邦住宅抵当公社)やフレディマック(米連邦住宅貸付抵当公社)が保証しているRMBSを自動的に売却するからであり、実際にはそれ以外にもこれらの準公的金融機関が発行したエージェンシー債や、さらには米国債をも売っていたようだ。ところが、チベット問題で国際的な非難を浴びているなかで、中国は北京五輪を成功させるために4月半ば以降、人民元の切り上げを見送っているが、その背景にはブッシュ大統領が五輪の開会式に出席するのを条件に米金融市場の安定化に貢献するという“密約”があっておかしくない。だとすれば、8月末に五輪が終わるまでは人民元の大幅な切り上げが回避されておかしくなく、それにより米金融市場も安定した状態を継続するのに寄与しそうだ。
こうしたことから、市場では信用不安が再燃するリスクを抱えながらも、4-6月期を経て7-9月期が終わるまでは小康状態が続くのではないか。そうしたなかで、足元では原油高から米株価が軟調な展開になっているが、原油相場がこのまま高騰していくとは思えず、いずれ反落していくにつれて株価も立ち直ってくるだろう。しかも、個人投資家も根強く高金利が得られる外債投資に動いていることも指摘できる。さらに、このところ主に対ユーロでドル安圧力が高まっていたが、欧州では金融機関の財務内容が不透明であることや、これまで好景気の長期化をもたらしていた東欧の経済環境が厳しくなっていることを考えるとユーロ高調整に転じておかしくなく、じきにドル修正高の流れに回帰していくのではないか。ドル・円相場については1ドル=105円台で本邦輸出企業による円買い予約が強力な上値抑制要因になっていたが、やがて出尽くせば一段高を目指しておかしくない。その場合、1月中旬から2月下旬にかけて推移していた107~108円台が当面の上値のメドになるが、これを超えると昨年6月22日の高値124円14銭から今年3月17日の安値95円77銭までの半値戻しである109円95銭まで上昇することもあり得るかもしれない。
とはいえ、決算期が訪れるたびに減損処理をせずに内容を“良く見せる”のはいうまでもなく問題の先送りに過ぎず、いつまでも持続できるものではない。米国の住宅価格も下げ止まらないばかりかここにきて一段と下げが加速してきており、さらには商業用不動産価格も本格的に崩れつつある。それにより、RMBS危機が収束したとはいえ今度は商業用不動産担保ローン(CMBS)危機が高まる恐れがあるが、このローンを細分化して他の金融商品と混合して加工した証券化商品の規模はRMBS関連のそれをはるかに上回るといわれているだけに、相当深刻な金融危機が引き起こされる可能性がある。それだけでなく、カード・ローンや自動車ローンといった他の信用市場にもそれが波及していく恐れが高そうだ。中国も北京五輪が終わる今秋以降、再び人民元を大幅に切り上げていく公算が高いことも、米金融市場を不安定にさせる要因になるだろう。こうしたことを考えると、10月以降になると再びドル安圧力が強まり、年明けにかけて100円を割っていく公算が高いのではないか。(5月27日、談)






