06月05日
立正大学経済学部 教授 林 康史
この4月から、月に一度のペースで、朝のラジオ番組に出ている。ビジネスについての展望を10分弱で語るというコーナーだ。先日、「石油、穀物の価格高騰の行方」というテーマで、話した。
(5月23日に日刊工業新聞の第二部に、一面から四面まで、商品取引の活性化についての論考を掲載したが、その導入部分の市況の部分について、語ったのである。詳細はそちらをごらんいただきたい)
このところ、ガソリンや食品の値上がりなど、暮らしの身近なところで物価の上昇を感じることが多くなった。実は、私のささやかな趣味は、スーパーマーケットで買い物することなのだが、最近、スーパーで買い物をしていて、インスタントのカップ麺、食用油などが目玉商品になっていないことに気づいた。目玉の特売品にしようとしても、もともとが値上がりしていて、スーパーが努力して安くしても、割安感が出ないということなのだ。
最近の穀物や石油の価格上昇の理由は、中国やインドなどの新興国の経済が発展する一方で、エネルギー分野では、大規模な油田開発も行われておらず、供給が追いつかなくなっていることにある。
穀物などの農作物は、①中国やインドなどの新興国の経済発展、②穀物がエネルギーの代替となったこと、③天候の不順が原因で、価格上昇が起こっている。
新興国の経済の成長が続くと、穀物需要も増え続けるということになり、穀物市場も逼迫したものにならざるを得ない。このような需要の高まりに対して、中国をはじめとする新興国経済の成長のペースは、調整局面をともないながらも、今後も持続的な発展を遂げると考えられ、需要と供給の不均衡は、当面、変わらないだろう。
一般にインフレが起こると、一部の商品のみの価格高騰に留まらず、商品相場全体に伝播するといわれるが、近時、その傾向に拍車がかかりつつある。穀物で言えば、バイオエタノール等の開発と利用の奨励によって、石油と穀物・砂糖が密接に関連する新たな状況が生じてきている。
加えて、干ばつ等の影響もある――と述べた。
問題はここからだった。
投機的な動きについて、投機的な資金が流出に転じれば商品市況は落ち着きを取り戻すとの見方もあるが、投機は、本質的な動きではなく、そうした動きは大きな流れを変えるほどのものではないと述べた。フリードマンの「愚かな投機家」の紹介もした。投機家が、最高値でも買う、だから、価格が上がると考えるのは間違いだとフリードマンは言っている。もし、その価格が最高値だとしたら、その投機家は損することになり、そんな投機家は、損ばかりしているから、やがて市場に参加できなくなり、淘汰されてしまう。投機家の動きは、本質的なものではない。
石油についても、新しい油田の発見・開発があったわけではなく、新興国での消費が大きくなっているから、基本的には、今の動きは変わらない。これまでは、先進国と呼ばれる国々の人口は、ほぼ8億人だったが、中国だけでも13億人で、全体で30億もの人たちが先進工業国になりつつあり、この動きは、一過性ではないということだ。
今回の価格上昇の原因が供給側にあるのか、あるいは需要側にあるのかの認識も大切である。それによって対応も違ってくるからだ。今回の商品価格の上昇は、多くが需要側に起因するものであり、1970年代の石油ショックのときのように供給側に起因する価格上昇とは状況は異なる。当時と同様の危機感をのみ連想するのは間違いで、「育ちの痛み」の面もあるということだ。
商品市場の価格上昇は、歴史的に見れば、いったん始まると、反落をともないながらも上昇は長期的に続く可能性が高い。現在は、1999年以降の上昇相場の道半ばと考えておいたほうがよい。
また、これまで、石油などの商品の価格が安かった時代が長く続いたということもある。国際通貨基金(IMF)によると、1980年から2007年までの27年間で、先進国の物価は2.7倍。80年代の原油価格からすると、100ドル程度だろう。つまり、現在は少し割高だけど、他の商品との比較で、異常というほどでもないのである。
投機的な資金が流れ込んで、価格の動向を増幅させていると考えるのは、短期的にはあるかもしれないが、石油は、最終的に、備蓄されるか、消費される以外にはなく、最後は実需で消費されていく。投機家は買った分と同じだけの量を必ず売る。彼らの働きは、花粉を運ぶミツバチみたいなものなのであって、短期的には投機資金が価格を押し上げているように見えるかもしれないけれども、投機資金が悪者というわけでもない。
その対策は……、今回はしゃべらずに放送は終わった。
放送後、クレームのメールがあったそうだ。
「最高値で買う人はいない」というのは間違いだ。言論は自由だが、あんなひどい人を出演させるのはよくない――そもそも私は「最高値で買う人はいない」などとは言っていないし、論理的な説明もなく、ひどいといわれても、どこがどうひどいのか、よく理解できなかった。
「講師は、テストだけができて分析能力のない学生のような存在だ」そうで、「社会心理の影響」がわかっておらず、「講師の言っていることではすまなくなる」そうだ。まったく早トチリだろう。私は自然に何とかなるさ、などとはまったく言ってはいない。私は大変なことがまだまだ続く、状況は悪くなると言っているのだ(もっと商品価格は上昇する、と考えている)。だから、一人一人が考えて行動しないといけないのだ。
暢気に、いずれ落ち着くなどと根拠もなく考えていると、対策もとらないということになる。「先週の論者のように、調整局面という考え方のほうが現実的」という意見もあった。現実は、足元も上昇が続いている。問題は現実であって、それを認識したうえで判断することが大切なのではなかろうか。高くなりすぎて誰も買わなくなり、供給も出てきて、インバランスが『明日』にも解消すると述べるほうが問題だろう。油田の発見から開発・生産まで、どのくらいの時間が必要かわかっているのだろうか。私の意見は「間違った論」だそうだ。また、私が価格高騰を予測できていなかった楽観論者ではなかったかとまで言うのである。
よく調べてから批判すべきだろう。私は何年も前から、インフレが昂進するだろうと述べている。
10分ほどの放送とはいえ、論理的にわかりやすくしゃべっているつもりだ。にもかかわらず、ちゃんと聴いていない人がいるというのは私には驚きだ。
忙しいことだし、そんなクレーマーに付き合うのもくだらないことに思えるし、出演するのもよそうかと思ったりもするが、やはり、世の中に、ちゃんと考える人を増やすことが必要だろう。しばらくは、発言を続けることになるのだろう。
ついでながら、放送後のことだが、バーナンキFRB議長も景気に対する懸念よりもインフレが心配だと、講演会で発言した。すでにインフレの時代に入っている可能性は高い。
またまたの追記(6月6日)。聴取者の反応は、基本、クレームが多いのは当然だろう。「よかった」「同感」というメールやファックスは、わざわざは送付しない。で、当然、文句ばかりが目立つことになる。。。と考えられるが、上記エッセイを書いた後、山梨の男性から、「勉強したいので、先生の書いた、わかりやすいものがあれば紹介してほしい」という電話があった。インターネットは使えますかというと、できないとの返事。『商品の時代』、また、近刊の『中国の時代』を読んでほしい旨を伝えて、簡単なメモをファックスした。年齢を聞いて、驚いた。85歳なのだという。勉強するということは、そういうことなのだ。こうした電話は、一本でクレーム数通を相殺してくれる。
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さて、私の知人の本を紹介したいと思います。日本経済新聞の記者、田村正之氏が『月光!マネー学』という本を出しました。「心静かにお金を増やすための91のルール」を中心に、一般投資家が知っておくべき投資、また、税や住宅ローン、年金、等々のマネー全般に目を配って書かれています。投資に関しては、一貫しているのは、「長期・分散・低コスト」。
「月光投資法」の意味は、月の運用とも言われる、受身のスタイルのインデックス運用を中心に据えているということと、「ぎらぎら」せずに、着実に、安全に、心静かに資産を増やそうということだそうです。
先月、中国に行ったとき、「月光族」という言葉が流行っているというニュースを見ました。本書とは、まったく逆というか、給料すべてを消費し、貯蓄しない若者たちのことをそう呼ぶのだそうです。
私は、私のゼミ生に、月光族にならないように、本書を読むように推奨するつもりです。皆様にも、ぜひ、ご一読いただきたい一冊です。
以上
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編集室より
林先生監訳の『カクテルパーティーの経済学 マクロで読み解く投資のヒント』(V・キャント著)がダイヤモンド社から出ました。
パッシブ運用とアクティブ運用は、いずれかが間違っていて、いずれかが正しい投資スタイルだと思われがちですが、この本では、この2つのスタイルを乗り換えることを奨めています。まさしく、目から鱗が落ちる、という感じです。それも普通の情報を利用して経済ショックを判断していくという、まっとうな投資方法を説いています。投資に関する考え方やスタイルについて、『マネーと常識』と『バリュー投資』とともに読むべき本でしょう。
また、来週、林先生訳の『ジム・ロジャーズ 中国の時代』(ジム・ロジャーズ著)が日本経済新聞出版社から出ます。ゲラを素読みしましたが、中国本土の会社に限らず、中国に関連する投資全般について、大局的、また、詳細に具体的に書かれています。中国の経済・投資の書物として、最高の一冊でしょう。






