外国為替市場ではドル・円相場が1ドル=105円台後半を、ユーロ・円相場も1ユーロ=165円手前の上値抵抗を超えて上昇し、ここへきて主要通貨のなかでは円独歩安になっている。その背景には、FRBのバーナンキ議長、ECBのトリシェ総裁がインフレ懸念から利上げを示唆する姿勢を見せていることがある。
米国で利下げ打ち止めから一部では利上げ観測まで見受けられるようになったのは、これまでの低金利でドルが大きく下落し、これが原油高を助長し、さらに市場や国民の間にインフレ期待が高まりつつある点を危惧したためと見られる。したがって金利先高観と、場合によっては為替介入の可能性まで示唆してドル安を阻止し、原油高を抑制しようと考えたようだ。
しかし、今日の米国金融市場は、表面的な落ち着きとは裏腹に、実態はかなり深刻な状況にある。これは金融当局も認識しており、簡単に利上げできる状況にはない。4月以降、米国では政府公認のもとに時価会計の緩和に動いている。例えば流動性の低い「レベルⅢ」といわれる債権を投資勘定から商品勘定に移し、簿価で表記することで大きな評価損を隠すことができ、表面的には決算内容がそれほど悪化していないように装っている。おそらく、7月に発表される4-6月期決算もそれほど悪い内容にはしないと思われるが、いうまでもなくこれは実態を正確に映したものではない。住宅価格も下げ止まるどころかここにきてさらに下げの勢いが加速し、商業用不動産価格も下げてきているために商業用不動産ローン担保証券(CMBS)も焦げ付くことで、いずれ金融危機が再発する恐れが高そうだ。
実体経済も中長期的に下押し圧力がかかり、リセッション懸念がつきまとう状況が続きそうだ。米国経済は07年10-12月期、08年1-3月期と2四半期連続で0%台の低成長が続き、辛うじてマイナス成長への転落が回避されてきた。足元では景気対策による減税で個人消費がある程度押し上げられると見られ、さらに一般的には年後半から09年にかけて住宅の下押し圧力が軽減するために次第に景気が回復していくことが期待されている。とはいえ、景気対策による押し上げ効果は7-9月期で剥落することになり、その後も金融危機の再発などでクレジット・クランチが強まる懸念があり、むしろ年後半から09年にかけての方がリセッションに陥る可能性が高まるのではないか。
欧州でも状況は同じである。これまで、欧州では金融機関が住宅ローン担保証券(RMBS)を含む債務担保証券(CDO)をかなり保有しているはずだが、会計制度の相違から金融機関がそれほど不良債権の処理をしてこなかった。とはいえ、米国の金融機関と同様にかなり“爆弾要因”を抱えているのは間違いない。実体経済も長期的に好景気が続いたが、最近では目立って減速してきている。
こうした状況では、米欧ともに金融当局が利上げをにおわす発言をしているものの、実際にはそれを実施するのは困難だろう。にもかかわらずそうした発言をしているのは、インフレ圧力をもたらしている原油などの輸入一次産品の高騰を、自国通貨を切り上げることで吸収しようとしていると考えられる。いわば、足元の円独歩安は決して経済実態を映したものではなく、多分に米欧当局者による“口先介入”をはじめとする人為的なものであるということだ。また日本でも、最近でこそ物価上昇圧力が高まってきたとはいえ米欧に比べるとその規模は小さく、しかも長らくデフレからの脱却が経済政策のテーマだった。それに加え、ここにきて景気が陰ってきたなかで、円安は輸出を押し上げることで企業業績の悪化を食い止め、またそれにより設備投資の落ち込みを緩和させることも期待できるため、円独歩安傾向を受け入れやすい土壌があった。
とはいえ、経済実態を反映しない為替相場や、政策対応を伴わない口先介入相場をいつまでも維持できるはずがない。日本でも円安政策を推進し続けると長期金利が一段と上昇し、かえって景気を停滞させる。それだけでなく、国内に買い手が減ったなかで国債の買い手を海外投資家にも求めなければならないが、円安観測が強まると彼らの買い意欲が低下する。それだけ円安は財政当局に負担となる。このため、ドル・円相場は当面の節目である1ドル=105円台後半の節目を超えてきたことで当面円安方向と見るが、それでも07年6月22日の124円14銭の高値から95年3月17日の95円77銭までの下げ幅の半値戻しである109円95銭まで戻すのが精一杯なのではないか。秋以降、米国で金融危機が再発する傾向が強まり、また実体経済も改めて落ち込んでいく兆しが出てくるにつれて、再び本格的な下降局面が到来しておかしくない。(6月10日、談)






