☆当面の見通し。経済環境☆
林 では、相場の予測というのではなく、予想される環境について、お話したいと思います。2006年後半は、米国経済の悪化やそれに伴う金融当局の政策が市場の注目を集めました。
昨年の米国市場では住宅部門の失速が話題になりましたが、景況感そのものはそれほど悲観すべき状況ではなく、「まだら」だと思います。マーケットもFRB(米連邦準備理事会)も迷っていますから、今後も、短期金利は利上げ観測も利下げ観測も両方出てくるのではないでしょうか。インフレ懸念は依然として残っていますから、金利見通しに関してあまり決め打ちしない方が良いと考えています。
また、金利は景況感やインフレ懸念だけで動いていないことを知っておくということも大切でしょう。金利の変動を長いスパンでみると、米国の国債発行残高などを背景にしながら動くことが多いものです。ですから、例えば「景況感が悪化したから金利がどんどん下がる」という議論は短絡的だと思っています。
潘 そんなに単純ではないですね。
板垣 米国の短期金利は、2004年6月から2006年6月まで、17回連続で利上げをしてきました。このことを考えると、当面は追加利上げをする可能性は低く、状況をみて利下げに転じるのではないかとみています。利下げの時期は、早ければ春先に訪れるかもしれません。
2006年は原油高に端を発するインフレ懸念が話題となり、それが利上げの根拠の1つとなりました。ただ、WTI原油期近が7月に高値78ドル台をつけた際のインフレ懸念も、現在の金利でクリアできたわけです。これに、足元の原油価格が落ち着いていることを考え合わせると、利下げのタイミングを計っても良い状況になったのではないかと思います。
ポイントは、2006年に行われた米中間選挙において、民主党が両院で勝利を収めたことではないでしょうか。つまり、このことによってイラク問題に早期解決の芽が出てきたと考えています。イラクにはまだまだ多くの問題が残っていますが、原油の生産体制は今後徐々に整ってくるはずです。
林 板垣さんがおっしゃる通り、エネルギー価格は、今のところ落ち着いていますね。ですが、基本的にはやはり原油を中心にまだ上昇していくとみています。需給はタイト化する一方ですから。現状が上昇一服しているようにみえるのは、小さな規模のマーケット(商品は金融全体の数%でしょうか)にヘッジファンドが大量に入ってきて、その一部が出口を探したため軟化したのでしょう。
☆ 外国為替相場の材料の見方☆
林 マーケットは、材料を時には後から探すこともあります。米国の経常収支赤字が囃されるのは、ドルが下落している時です。これも滑稽といえば滑稽なのですが、経常収支赤字が話題になったのは、ドルが売られ始めてからなのです。その後ドルが値を戻したら、誰もそのことを口にしません。
もう1つ、経済統計をみる上で大切なのは「サプライズ」です。例えば、雇用統計において非農業部門就業者数が増えたとしましょう。これは米国景気にとって良いニュースです。しかし、事前に予想していたほどの増加幅ではなかった場合、ドルは逆に売られるケースが目立ちます。このように、経済統計をみる際にはマーケットの予測と現実との差に注目しなければなりません。教科書通り、「雇用統計が良かったからドルが上がる」と思っていては、対応できません。
潘 なるほど。マーケット・コンセンサスというか市場の大方の見通し、またはその材料に対する期待が、価格に織り込まれている、ということですね。そこでサプライズが起こったりする。
林 そうです。現実の推移だけが問題なのではありません。
板垣 為替相場を動かしているのは、当該通貨の需給関係です。簡単に言うと、ドル需要と円需要のどちらが多いかということです。為替の需給は、貿易収支と資本収支の2つに大別できるのですが、日本は貿易収支面で約8兆円のプラス、資本収支面で約12兆円のプラスです。しかし、日本に入ってきた資金はドルやユーロなど外貨で運用されるため、円高に対する抵抗は以前よりも強いと考えています。貿易収支と資本収支の黒字が、ドル売り圧力にならないという構造が出来上がっているわけです。ゼロ金利の円よりも、5%以上の金利がつくドルが好まれるのは当然でしょう。
これから日銀が利上げしたとしても、米国との金利差はまだまだ大きいわけです。そのことに皆が気づけば、足元のドル売りムードは消えて、再びドルが買われると思います。よって、ドルは下げても113円台までと予想しました。2007年、110円を超えて円高が進むほど円の魅力が高まるとは思えません。
潘 ということは、まだまだドルの押し目買いに分があるということですね。
板垣 もう1つの要因として、私は個人投資家による外国為替証拠金取引も無視できないと思います。ここ3年ほどで証拠金取引の市場は大きく広がりましたが、今後もますます膨らみそうです。レバレッジも効いていますから、これは大きな力を持つことになります。
ですから、先ほどコア・レンジの上限を118.5円と申し上げましたが、瞬間的には125円くらいまでドルが上昇しても不思議ではありません。個人投資家の力とは、これほど大きなものになっているのです。
林 私も似たようなレンジですが、ドル高の方向にはもう少し広くとりたいと思っています。
☆ 注目の中国☆
林 2008年の北京五輪や2010年の上海万博までは、中国経済は大崩れしないと思います。もちろん、内陸部と沿岸部の経済格差は大きいですが、それは発展する上で仕方のないことです。
それよりも、今の中国には上海を中心に、日本と同じレベルの生活をしている人が4000~5000万人もいるということが重要です。これを過小評価してはいけません。早晩、中国のGDPは日本に追いつくと考えています。中国が7~8%の経済成長を遂げ、日本経済がそれほど成長しなければ、2020年代には逆転されるでしょう。
潘 弊社は、既に3年前から中国市場に数箇所の拠点を確保するなど布石を敷いておりますが、2007年は中国市場強化年として、更に注力していく計画です。
林 また、私はよく仕事で中国のあちこちに行くのですが、四川省や雲南省などでも、都市部の住宅価格が上がってきています。地方でも場所によっては発展しています。
板垣 私も同感です。中国経済は2010年まで問題なく伸びていくと思います。内陸部と沿岸部の経済格差という話が出ましたが、これはリスクと言えるかもしれません。内陸部に行けば年収が1万円ほどという人々がいる一方、上海などでは月収が100万円という富裕層もいるわけですから、内陸部の不満が募って当たり前です。しかし、中国に関しては2007年もおおむね問題ないでしょう。
中国の対米貿易黒字は記録を更新し続けています。当然、米国は人民元の切り上げを要求し続けるでしょう。ただし中国にも面子がありますから、それに従ったという形ではなく、ゆっくりと人民元の切り上げを行うはずです。これは、2006年の構図と変わらないのではないでしょうか。いきなり大幅に切り上げては、輸出産業を中心に中国経済が大打撃を受けてしまいますから。
林 通貨に関しては、2005年7月以降、中国政府は外国為替の管理制度について、改革を進めてきています。例えば、2007年2月1日から、中国人民銀行は新たな「個人為替管理方法」を実施しています。その第4条で、「現匯」と「現鈔」という2つのレート(「現匯」とは送金為替レートで、「現鈔」とは現金の為替レートのこと)を統一し、個人所有の為替の管理方法が改正されました。
2006年2月28日、中国国家外貨管理局資本項目司の鄒林司長は北京市内で「中国は近い将来、資本勘定で人民元を基本的に兌換可能にする」と発言しています。
人民元の完全兌換化に関して、鄒司長は「長期的な目標だ」と述べ、具体的な方策や日程に関しては言及していないものの、「資本勘定において人民元を基本的に兌換可能にすることを、関係部門はかなり早い時期に決定していたといってよい」と、この方策が計画的に進められてきたことを強調しています。
中国は、どうやら自らの為替管理について自信を深めているように思われます。つまり、自由化しても乗り越えられると踏んでいるのではないでしょうか。彼ら自身、制度改革のメリットもわかっていて、外圧により制度変更を余儀なくされたというのは、まったくの誤解であり、一流の経済であることの証としての自由化だとの認識が関係部門に認識されてきたように思います。
2008年の北京オリンピック、2010年の上海万博ののちに外国為替管理が自由化されるとの見方は根強いものがありますが、あるいは、私たちの予想以上のスピードで、中国の外国為替制度は変更されていく事態も考えておかねばならないと思います。
潘 確かにおっしゃるとおりで、中国の為替管理制度の改革開放はかなり急ピッチで進んでいます。海外送金に係る規制も緩くなりましたし、極めて典型的なことは、中国銀行、建設銀行、交通銀行、中国商工銀行という中国の大手銀行が政府による認可を受け、外国為替証拠金取引の受託を開始したことではないでしょうか。
林 また、中国の政治家が「人民元改革」を外交カードとして使うことも想定しておかなくてはなりません。改革の必要性は自分自身が一番わかっているはずですが、政治的な駆け引きの材料としては今後も使う可能性はあります。